「水声」 川上弘美 2014年9月刊行

家族の物語、そして姉と弟の物語。「大きな鳥にさらわれないように」に続いて、一日で読了。素晴らしい。かくも穏やかな小説が、これほどの引力をもって読者を離さないのは、いったいどんな秘密があるのかと思ってしまう。

 姉の都(みやこ)、一つ下の弟陵(りょう)、ママ、パパ、ママとパパの友人武治(たけじ)さん、ママの幼馴染の女性の娘菜穂子。メインのキャラクターはこれだけで、都の語りで話が進んでいく。

1969年11歳の都と10歳の陵の話から始まる。1986年ママがガンで死ぬ。そして今2013年、二人は一緒に暮らしている。時間は行き来し、時に、二人が生まれるずっと前の大きな戦争の頃にまで、ママの話とともに戻っていく。子供たち二人の秘密、ママとパパと武治さんの秘密、それらが絡み合いながら、薄明の記憶の中で、あるものは薄れあるものは今でも輝きを保っている。
 チェルノブイリ、日航123便、天皇崩御、サリン事件、そして東日本大震災、少しずつ織り込まれた歴史的な事件が、時の経過と時代の雰囲気をつけたすのだけれど、それはほんの少しの影に過ぎない。これは閉ざされた家族の物語、姉と弟の「愛情」をめぐる物語だから。
二人はどうなってしまうのか。作者は少しも急がず、11歳から55歳の現在までの時間の中に、その答えを見出していく。それは普遍的なテーマなのか。孤独とか寂寥とか、他者の手のぬくもりとか、川上弘美は、そういうものがすごく上手い。だが、このストーリーはちょっとその上をいくものなので、なんとも言えない。つまり一般受けするかどうかということ。
66回読売文学賞を受賞。もう川上の次の本を読みたくなった。

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