最近読んでいた本  オリーブ・キタリッジ、アン・タイラー、「異常」など

姉に勧められて読みだしたエリザベス・ストラウト「オリーブ・キタリッジの生活」と続編「オリーブ・キタリッジ ふたたび」。ピューリッツア賞をとっている。
どちらもなかなか面白い。アメリカの片田舎の中流かそれ以下の普通の人のくらし。オリーブ・キタリッジは40代の女性。小学校の数学の先生でやや偏屈で個性の強い女性。小説は13の短編からなり、必ずしもオリーブが主人公というわけでもなく、その小さな町にいろんな住民があちらこちらに暮らしているその姿そのもの。どの短編にもオリーブが登場し、あるときはメインキャラとして、あるときは点景として、うまく全体にいかされている感じ。40代から70位までの人生の断片が積み重なっている。そしていつまでも変わらぬアメリカの田舎の町がそこにある。
「オリーブ・アゲイン」のほうは、70代になったオリーブのその後。人生の悲しみ、大切な人を失う寂しさ、それでも生きていく人のある種突き抜けたな明るさ。そしてついに施設に引っ越すオリーブ。ストラウトの描き方は、凡にして時に圧倒的な破があって、まったく関係はないけれど、昔の大江健三郎の小説が平々凡々な暮らしに突然ガラスが壊れるような異常な事態が発生する、あの不穏な感じを思い出してしまった。

なお、訳者の小川孝義さんの対談が面白く読める。この方は以下に紹介するアン・タイラーの「この道のさきに、いつもの赤毛」の訳者でもある。


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「異常」は今年のゴンクール賞をとったが、これはミステリーとSFと純文学があわさったような作品。プロットが全く予想外に展開していくので、一気に読み進められる。出だしのミステリー要素から惹きつける。
エールフランスのある飛行機に乗り込んだ乗客に起こった大変不思議なできごと。それを十数人の乗客にスポットをあてて、事件前、事件後のそれぞれの様子をランダムにつないでいく手法は、モンタージュ的な面白さ。フランス映画っぽい感じもある。ミステリー系の評価は高いが、この結末はどうなのか。なんだかちょっと笑える。

アン・タイラーの「この道の先に、いつもの赤毛」
エリザベス・ストラウトの世界と少し似たところもある。小さな町でIT修理の出張修理をやっている中年独身男、マイカの日常。身の回りに起こる些末な出来事、修理依頼のあれこれの電話と出張サービス、ああ、これもアメリカの日常なんだろうなと思う。そしてマイカはある種「逆転したハードボイルドヒーロー」みたいだ。とても好きな作品。これは2020年の小説でブッカー賞候補になった。

柳美里「JR上野駅公園口」
昨年の全米図書賞受賞作品。書かれたのは2014年だったか。貧困、出稼ぎ、故郷喪失、ホームレス、そして東北大震災へと収束していく。テーマがとても暗いので、誰にもおすすめというわけではないが、柳美里はこんなテーマでも、さすが一気に読ませる。「文学的意匠」がちょっとあって、いまはこんなの受けないんじゃないかなと思うところもある。こういう仕掛けはなしでも十分いい作品だが。でもこの作品は評価します。



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