帰宅してエアコンをかけてソファに横になって100ページ、2時間ほど。一気に読んだ。
「推し」とは、自分の一押しのアイドルという意味で、それがSNS上で炎上するのを「燃ゆ」とした。自分の「推し」が突然ファンの女性を殴るという事件があってネットで大炎上するという出だし。芸能系のアイドルに大金を賭け、ある意味自分の全生活をかけている若い人がいるといいうことは聞いてはいるが、自分とは全く遠い世界である。
主人公は学校では無気力な女子高生で、勉強の意欲もなく、ひたすら押しのアイドルのおっかけをし、関連物品を購入するためにアルバイトの給料を全部つぎ込んでしまう。幼いころからのあこがれのアイドルのすべてを記憶し、書きとめ、画像を集め、同好の士とSNSで交流する。ブログを書き、アイドルのちょっとしたしぐさを分析したりし、それなりにPV(ページビュー)も集める。
だが、この子は学校ではほぼ意欲を失っており、最後には留年となり退学してしまう。姉と母とそして海外勤務の父親も戻ってきて、家族から将来を案じられ、最終的に一人暮らしをすることになる。だが、バイト先からも無断欠勤のために首になり、生きがいのアイドルは女性問題で引退してしまうという悲惨な状況に…
何も主体的にやることができない、女の子の絶望。「推し」にひたする命をかけ、「推し」の活動だけが生きる意味という女の子が、その生きがいを失って、それでものろのろと、重い体をひきずって生きるしかないのかなあとつぶやくような、そんな話。
地の文とブログの文の対比で、主人公の心の在り方を複層的に描き、きちんと造形されている点はよし。サブカルとしてのアイドルとファンの世界はある意味不気味で、朝井リョウが「未来の考古学者に見つけてほしい。現代をみごとに活写した傑作」というのはそういうことなのだろう。
さてさて、この本を自分は「推す」かどうか。うーん、今一つ。一気に読ませる筆力は本物なのだが、この世界はほぼ興味がない。なので、宇佐美さんがもう一つ別の世界を描いた本を読みたいと思った。
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