映画「ドライブ・マイ・カー」と「女のいない男たち」村上春樹  2021/7/14

今年のカンヌ映画祭、濱口竜介が監督し、西島秀俊が主演の「ドライブ・マイ・カー」がノミネートされている。村上春樹の短編を原作にした映画。すでに試写は終わり、パルムドールの発表は17日とのことで、楽しみ。

 ところで…原作の「ドライブ・マイ・カー」は、話自体はそれほど面白いとは言えない。妻の病死のあと、妻の不倫を知った男が、相手の男と会って、復讐を考えるという筋があって、その一方で、この男は目の疾患によってしばらく運転できなくなって、若い女性の運転手を雇う。この女性は無口だが、実にしっかりした運転をする女性で、主人公の話相手にもなってくれる。ストーリーの聞き手という位置づけ。
特に何か事件が起こるわけでなく、「会話劇」的な作品で、村上作品によくあるあのちょっと独特な会話の「雰囲気」とか「ロジック」は、ここではそれほどうまくいっているとは言えない。村上の小説は、「怪異なもの」がでてこないと、魅力は今一つ…「1Q84」以降は、急速に引力というか密度のようなものを失った気がする。ちょっと脱線でしたが。

作品としては、わりと映画向き。特に若い女性運転手がなかなか魅力的に描かれているので、女優さんがあえばきっといい映画になると思う。結論的なものがないので、評価はわかれるかもしれないが。パルムドールをとるような作品になっていたらすごく嬉しいが小説の出来からするとちょっと厳しいかも。


「ドライブ・マイ・カー」は2014年出版の短編小説集「女のいない男たち」の巻頭作品で、この短編集にはほかに「イエスタデイ」「独立器官」「シェラザード」「木野」「女のいない男たち」が収められている。どれも一気に読める。ただし、村上的な世界、「セックス」「孤独」「喪失」などが苦手なら、楽しめないと思う。

自分の評価としては、「木野」がベスト。ついで「シェラザード」かな。こういう不思議系、怪異系、妖怪系(w)の作品を書かせたら、村上は今でもなかなか凄い。ただし、短編なので説明はなしで、ある意味「ぶん投げられて」いる感じは残る。
「木野」の中の「神田」という男の存在がなかなか秀逸で、「騎士団長」みたいなキャラを生み出す才能は、まだまだ枯渇しないなあということ。

村上春樹の短編集は「東京奇譚集」が一番よかった。長編も「カフカ」「ねじまき鳥」「1Q84」など。このあたりの作品を書いていた頃が、この人のベストの時期だったのでは思う。


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