辛島デイビッド「文芸ピープル」…quirky, odd, weird な 日本の現代女性文学


多和田葉子、柳美里、小川洋子の作品がそれぞれ欧米で大きな賞をとったり、最終選考にはいったりしているというニュースがこの半年ほど続いた。翻訳家の辛島デイビッドが新著「文芸ピープル」で、あまり知られていない海外の文芸の状況を、インタビューや取材をもとに詳しく紹介してくれる。

アメリカで一番売れているのは村田沙耶香の「コンビニ人間。」2021にはすでに25万部に達したとか。若手作家では、川上未映子の「乳と卵」川上弘美「センセイの鞄」今村夏子「ムラサキのスカートの女」など。

英語圏では、こうした作品の女主人公に対して

 quirky, odd, weird  (いずれも、気味の悪いの意味)

という見方もあるらしい。これまでの日本の女性作家とその作品について、「エキゾチックな花」という固定観念的な評価は、もう昔のこと。あるアメリカの翻訳者は、たとえば村田沙耶香について。

  その凄まじい想像力は英語圏でも突出しているという。そして、日本の女性や日本的なテーマについて書いていながらも、その作品には世界に訴える普遍性もあると。魅力の一つは、現実を直視しながらもすぐに人を判断しない(non-judgemental)な姿勢。そしてさりげないユーモアだ。

村田沙耶香への評価が妥当かどうかは別として、この作品が広く受け入れられる素地は、日本のコンビニというちょっと特殊で無機質でいて妙に人間臭い場所に対する、安心感とでもいうもの、そこに生息している人間の否定できない「存在意味」を表現にのせること。その面白さをアメリカの読者も十分に感じ取っているのだと思う。そして何より、そこの日常からとんでもない方向に想像力が飛躍していくところが、これは何国人だろうと、文学の醍醐味というべきところ。なかなか見事な作品だ。

日本文学の海外への進出は、古くは20世紀後半の3人(川端康成、谷崎潤一郎、三島由紀夫)、次に大江健三郎と安倍公房、そして20世紀最後から21世紀にかけての圧倒的な村上春樹の翻訳が、大きな波としてあったけれど、今はそれに続く新しい波が起こっているようだ。

アメリカやイギリス、オランダなどの出版事情や翻訳家、編集者たちの仕事や考え方などもよく描かれていて、本好きならかなり楽しめる。村上春樹とカズオイシグロについても、ちょこちょことでてくるので、興味が尽きない。

本好きの人のための本、という感じでしょうか。なお、この本で今後まもなくアメリカなどで翻訳、出版される本として(あるいはもうでているものも)、未読のものをメモとしてあげておく。これ次に図書館で借りてくる予定です。

村田沙耶香「地球星人」

小山田浩子「穴」「工場」

松田青子「おばあちゃんたちのいるところ」

津村記久子「この世にたやすい仕事はない」

*どうでもよい話だけど、「文芸ピープル」というタイトル、TVピープルとかリトルピープルとか、村上春樹風の名前だけど、そういう小さなオマージュがあったのか。あるいは単純に、たとえば「オーディナリ・ーピープル」(映画「普通の人」の原題)くらいの感じでそれを翻訳風の日本語に逆にのせただけなのか。


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