「菜食主義者」 ハン・ガン   「未完の資本主義」 大野和基による世界の経済学の泰斗へのインタビュー集

ハン・ガンの「菜食主義者」は2002年~2005年に書かれた三篇の中編小説をまとめたもの。日本語翻訳は2011年だったようだ。この作品、2016年のマン・ブッカー賞国際部門を受賞している。ブッカー賞は全米図書賞と並ぶ世界的な賞。昨年は小川洋子の「密やかな結晶」が最終ノミネートに残り話題になった。

ハン・ガンが受賞したときの日経ビジネスの記事がまだ読めるのでリンクを張っておく。


感想:小川洋子の昨年の話題で、この作者を知った。星野智幸の「植物忌」の書評が朝日に載って、その中でハン・ガンの「菜食主義者」にも触れてあったので、これは読んでみたいと。図書館にいったらこの本は入っておらず、わざわざ仙台の太白区図書館から取り寄せていただいた。(大崎図書館様、ありがとう)

まーある意味すごい作品だった。一気読み。暗く重く、救いのないお話で、主に狂気と夢がテーマですね。
菜食主義になり、拒食症になり、静かに深く病んでいく女の話。100p位の中編が三つあわさり、一冊目は平凡な主婦が急に拒食症になり、夫の心が少しずつ離れていく。最後は両親も含めてこの女性の治療をめぐって大きなトラブルが発生する。次はその2年後、療養を終えて戻ってきたこの女性に対し、実の姉の夫が奇妙な執着を抱くお話。女の尻に残る蒙古斑からイメージが広がっていきとんでもない結末に至る。女はさらに病を深めていく。最後の話はさらにその何カ月か後。こんどは入院した妹とそこを訪れる姉の話に。すべて主人公の女との関わりで時間をおって、狂気が深まり、その周辺の人もそれに巻き込まれていく様が、描かれている。
性と死と暴力が背景にあって、心を病み植物へと同化していく女。夫も義兄も実の姉も妹との関係の中で少しずつ病んでいく…

最近読んでた日本の若手女性作家たちと決定的に違うのは、ユーモアとかちょっとした息抜きとか、読者を意識したデバイスというかサービスみたいなものが全くない。息が詰まりそう。でも、すごい迫力とイメージの転回力と、いったいどうなるんだという物語への期待で、ひたすら読んだ土曜の午後だった。

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今図書館で順番待ちなのが、デービッド・グレーバーの「ブルシットジョブ」。もう2か月前に申し込んだんだけど。ジャーナリストの水野和基さんのインタビュー集「未完の資本主義」はPHP新書で安い。これは、ノーベル経済学賞をとったポール・クルーグマンや、ニューヨークタイムズにコラム載せて、ときどき朝日にもでてくるトーマス・フリードマンや上記のグレーバーなどにインタビューしたもの。
ちなみに、一昨年ウオール街占拠運動のスローガン「we are the 99 percent 」を作ったのもグレーバーだとか。さらに、NHKの「欲望の資本主義」にもでた、トーマス・セドラチェックなど世界の7人の経済学者との、単刀直入のインタビューで、今の世界経済のこと、これからのことを知るのに、役に立つヒントが得られる本。とてもわかりやすい。ちょっと古いですが。2019年9月初版。

ところでグレーバーが「ブルシットジョブ=どうでもいい仕事」と呼ぶのは、ブルーカラーの仕事でなく、むしろホワイトカラーの仕事。特にクリエイティブ系の仕事たとえば映画製作では、脚本家とプロデューサーの間に5層にもなって管理職がいて、何をするわけでもなく日々を暮らし高給を得て、脚本にとりあえず1行だけ変えたり、付け加えたりするだけの仕事をしている。このような仕事をブルシットジョブと呼んでいいのだとか。
日本だと、電通とかパソナがやっている人を働かせるだけの中抜きの仕事のほぼすべてがブルシットジョブというわけですね。


 

コメント

  1. 「太白図書館から取り寄せて頂いた」に反応しました。私は2月に仙台市図書館から大崎市図書館の蔵書を借り出して貰いました。「幻のえにし」-渡辺京二発言集でした。何年も前、氏の「逝きし世の面影」に感動してから、ずっと関心を持ち続けています。S先生の読書範囲の広さと深さには及びもつかず「菜食主義者」も未読です。「乳と卵」は作者が芥川賞をとったと時にすぐさま読みましたが、内容よく思い出すことができません。現在は図書館からの借り出し本の合間に「アミエルの日記」を読んでますが(河野與一訳)「三」まで来て読書中だけ快楽なのです。本はたいてい読了した端から忘失していく有様でいます。ご紹介ありました「文芸ピープル」、予約して少し待って借りられて今読みだしているところです。これからもブログで教えて頂くのを楽しみにしています。
    お料理も素敵なうえに美味しそう、私はお嫁さんのつくってくれるのを食べる側にまわっていて、料理のカンもすっかりくるってしまいました。料理はボケ防止になるのではと思ってますので、すこし悲しいです。


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    1. カイエさま、お返事遅れまして大変失礼しました。以前教えていただいた、渡辺京二とリチャード・フラナガン、読もうと思ってなかなか本が探せず。いずれ読みましたら、感想を書きたいと思います。「文芸ピープル」は翻訳業界の本で、これから世界に売り出していく日本の若手作家(主に女性)のことが、世界視線でよくわかりますね。ある意味、自分の読書リストになりました。ハン・ガンのこの作品も文芸ピープルで知りました。自分は世界が狭いのでやはりよく先達が必要です。
      姉がもう読みたいものだけを読むとか、言っていましたが、自分の場合は、まだまだ知らない作家、作品が多いので、やはりこういう本も含めて「ブックリスト」を必要としています。
      はい、私も料理はボケ防止用で(笑)あと楽器も(ギターとピアノ)もついでにボケ防止です。あと山歩きもね。それでもしのびよってくる此奴をなんとかしないと。

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