ポストコロナ期を生きるきみたちへ 内田樹編 晶文社
内田樹が編者になり、19人の著者に依頼して、上掲のテーマについてエッセイを書いてもらったもの。若い読者を想定しているが、幼い読者という意味ではないので、普通の論説レベル。読みやすい。また話題をコロナに限定せず、これからの生き方について様々な分野の専門家などが、多岐にわたる視点から書いていて、なるほどと思わせる話も多い。
多くは、これからの日本社会と世界の動静の予測、そして大変動に見舞われる時代に、どのように賢く正しくいきていくかを若者に訴える本である。
斎藤幸平が次のように書いている:
これだけ経済や技術が発達しても、ウィルスのような自然の脅威を前にしては、結局人
間は無力なのだ、社会の繁栄というのは、非常に脆弱で、繊細なものなのである。だか
らこそ、人間は自然を自由に支配できるという驕りを捨てなくてはならない。自然を健
康な状態にしておかなければ、そのしっぺ返しは自分たちのところに跳ね返ってくる。
p28
斎藤幸平が「人新世の資本主義」を書いた、そのスタート地点にあたる考え方といえる。
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白井聡がコロナにあわせて、科学技術の進歩の危うさについて考察し、コロナ流行によって大いなる気づきを得たと考えるべきだという。
白井は、原発事故のについて触れる。福島第二が爆発したあと、ドイツはすぐに「脱原発倫理委員会」を設置し、科学l者、経済学者、政治学者、実業界、宗教界の代表を委員に選んだが、原子力の専門家は排除した。利害関係者だからだ。結局この委員会が脱原発を提言し、ドイツは脱原発を国家として選択した。
翻って、当事者の日本はどうか。
「科学技術の発展と幸福な未来」という幻想を広げ、その内実は:
社会を腐敗させる行為(原発マネーによる立地地域の買収、反対者への脅迫、御用学者
の育成、マスコミの買収等々))が数限りなく行われました。こうして、技術に隷属
し、技術によって歪められた廃墟のような無残な社会ができあがりました。 p80
原発の汚染水(処理水と呼べと叫んでいる愚か者たちがいるが)の海洋投棄だけでなく、原発そのものの再稼働まで話題になるのが日本という国。
本書の本筋からは少しはずれるけれど、もうひとつ興味をひいたお話を少し。
イスラム学者の中田考が、分子生物学者の福岡伸一の言葉を引用している(福岡さんはこの本には登場しない)
福岡伸一はCOVID-19について、「エボラ出血熱やマールブルグ病のような致命的なウ
ィルスが攻めてきたわけではない。むしろ致死率が高いウィルス病は、宿主を殺してし
まうゆえに広がることが少ない」と述べ「世界を混乱に陥れた」のは「急速に伝搬され
たウィルスそのものというよりも、人々の不安である。これほど大きな社会的・経済的
インパクトが地球規模でもたらされるとは、誰も予想できなかった」と述べています。
(p209)
COVID-19で死ぬことへのヒステリックな反応は、実は人間が必ず死ぬということから
目を逸らそうとする絶望的なあがきです。p210
病気は人を弱くする。少し突き放して考えることも必要。病気にかかるこを恐れるより、これからどんな社会になっていくのかなあと考えるほうが、きっと楽しい。決して明るい未来はこないだろうが、とりあえず自分はちゃんと生きなくちゃね、と思うほうが楽しい。
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