小林紀晴 「まばゆい残像… そこに金子光晴がいた」

小林紀晴の写真を知ったのは90年代「アジアン・ジャパニーズ」で。
「放浪系」の写真家で、東南アジアが主なフィールド、アジア的なものを描く作家だと思っている。

戦前からの詩人金子光晴のアジア放浪はまさに小林の求める「放浪」の原点のような旅だったのだと思う。それは当時注目を集めていた沢木耕太郎の「深夜特急」とはまた違った、古い、濃い、深い旅で、金子の描く「どくろ杯」「ねむれ巴里」などの世界のほうが、多分小林があこがれたものと思う。
金子のあとを追う旅の記録をいくつか出版されている。これは2019年の最新の作品。

モノクロの写真と日記風の文章。
静かで悠久のアジア、蘭印(マレー半島)に金子を追う旅の記録である。

自分もずっと金子光晴が好きだったなあ。『おんなたちのエレジー』はこんな詩だ。




洗面器の中の
さびしい音よ。

          くれてゆく岬の  (タンジョン)
雨の碇泊。

ゆれて、
傾いて、
疲れたこころに
いつまでもはなれぬひびきよ。

人の生のつづくかぎり
耳よ。おぬしは聴くべし。

洗面器のなかの
音のさびしさを。

『おんなたちのエレジー』


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小林紀晴も51歳で、母校東京工芸大学の教授になられたようだ。


 

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