「幸福な監視国家・中国」と伊藤計劃の「ハーモニイ」

「幸福な監視国家・中国」梶谷懐、高口康太(NHK出版新書)
「ハーモニイ」伊藤計劃(早川書房)

みんなうすうすわかっているだろうが、日本は(あるいは世界のどの国も)もうトータルで中国には勝てないのではという思いがあって、一方で、この怖い国がどこまで行くのか、どこかで破綻するのでは、いつかまた革命が起こるのでは、などなど中国に対しては平気ではいられない。
最新テクノロジーはあっというまに社会システムの中に実装されていく、そのスピード感もなかなかのもの。裏でどんなに危険なことが起こっているのかと想像もさせる。(新疆ウイグルのこと、DNAレベルでの人体改造のことなど)

中国の都市部はもちろん、どんな田舎にもあるハイパー監視システム。これが今の中国の国家システムの基盤になりつつあるようだ。監視社会がすでに実現している。そして不思議なことだが、中国の一般人はそれを「よし」としている、というか「治安や安全」とのバーターで、「監視社会」を許容しているのである。そして監視社会と表裏をなすのが、「社会信用システム」人の行動を得点化し、お金を借りてちゃんと返済すれば何点、返済が滞るとマイナス何点、ボランティアをすれば何点なと、法の処罰とはまた違った形で人の行動を規制し、人を一つの方向の行動に導くシステムが構築され始めている。中国には「お行儀のいい社会」が生まれつつあるという。

来るべき未来について、オーウェルの「1984」では画一的で自由のない完全なディストピアという形に描かれていたが、ハクスレーの「すばらしき新世界」では管理下にはあるけれど、家族などから切り離されむしろ欲望に従って自由に生きられる社会を描き出している。その後者の後継にあたるものとして、伊藤計劃の近未来SF小説「ハーモニイ」が紹介されていた。
この小説、9.11後に起こった「大災禍」ののち、人類は人の命と健康を守ることを第一として「医療分子」と呼ばれるものを体に組み込みあらゆる病気から解放されて、お互いを傷つけることなく優しさに溢れる社会に生きていた。死んではいけない社会のその中で、3人の少女が違和感を持ち死を渇望する。やがて一人の少女が、世界を大量の自死へと導いていく。

小説自体は、少女が主人公のせいもあるが、やや幼い印象があって高く評価はしづらいが、これ、2009年の日本SF大賞をとっている作品とか。近未来の高度医療機器依存社会、情報依存社会、幸福管理社会の深化と破綻がえがかれていて面白かった。

**朝日新聞の7/5GLOBEで、ちょうど「監視社会」の特集があった。中国式の監視システム、ちょうどコロナの接触アプリの話題とともに紹介されていた。現在アフリカ諸国は中国の猛烈な経済進出をうけているが、特にケニアなど独裁国家では、この監視システムを丸ごと輸入しているとのこと。国家の形態は、国民(市民)の成熟がなければ、進歩のしようもない。アメリカの大統領、フィリピン、ブラジルの指導者を見ても、あるいは都知事選を見ても、作られた情報と評価、作られたポピュリズム、人の心の底にある不安を操作すれば、いくらでも穏やかな独裁は維持できるのだと思う。

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