「独ソ戦」大木毅(岩波新書)
「日本軍兵士」吉田裕(中公新書)
「日本軍兵士」は2019年の、「独ソ戦」は2020年の新書大賞を受賞している。いずれもよく売れた本で評価も高い。「日本軍兵士」は大量の戦死者を出したアジア太平洋戦争の末期、兵士たちの証言から仲間がどのように死んでいったのか、どのような飢餓と困窮と恐怖の中で、生き抜いたのかが描かれている。これに類した本はもちろん多数あるのだが、その具体性が特筆すべきで、なかなかの力作だった。大岡昇平をもう読まない世代の方に、ぜひ目を通してほしい本。
「独ソ戦」は、その太平洋戦争をはるかに上回る戦死者を出した第二次世界大戦の本丸、ドイツのソ連侵攻とソ連の猛反撃の有様を、独ソ双方に(比較的)公平な立場で、資料を駆使しながら描いたもの。独ソ戦の全体像を個々の戦闘から、全体戦略にいたるまで描き切るのは新書一冊では足りないのだが、それでも戦争の概要をくっきりと描き切っている。ソ連の戦争関連死者は2000万から2700万人と言われている。ドイツは600万人が死んだ。想像を絶する死者数である。
それ以上に、この独ソ戦は、軽侮するスラブ人国家であり憎むべき共産主義国家であるソ連を「絶滅」させようとしたナチスドイツと、大粛清で求心力を失いつつあったスターリンが「大祖国戦争」という位置づけでドイツに反撃し、お互い捕虜協定などを遵守してきたそれまでの戦争形態から、捕虜を殺し民間人を殺戮するような「絶滅戦争」へとより凄惨な地獄に変貌していった過程を冷静に描いている。スターリングラードの攻防はなかなかすさまじい。
独ソ戦については、教科書的な知識とアレクシェービッチの「戦争は女の顔をしていない」くらいしか読んだことがなかったので、戦争の概要と戦略的な推移が読めて面白かった。
二年連続して75年前に終わった大二次世界大戦関連の本。いまだにこうした本が売れるのは一体どうしてなのかとも思うが、人類最大の悲劇の一つだったからで、読むに値する、知るに値する歴史のひとつだから、か。
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