多和田葉子と今村夏子


多和田葉子 「犬婿入り」「雲をつかむ話」「ゴッドハルト鉄道」「百年の散歩」 


多和田さんは先日「献灯使」で全米図書賞をとって、一躍ノーベル文学賞候補の一人になったという噂。図書館では待ちが長くて、購入しようかちょっと迷う。

初期の「犬婿入り」はやはり衝撃的な作品で、お話の設定もそうだけど、喚起されるイメージの強さがなかなかのもの。持って生まれた文体の粘りがこの人らしい。ただし、誰にでも合う作風とはとても言えない。

「雲をつかむ話」は読売文学賞だったか、刑務所に入ることになる男や女とのエピソードがオムニバスのように次々と現れて、「私」の中にある「自分と刑務所の距離=ある日突然逮捕される不安と予兆」がどのエピソードにも投影されていく。人が変わり、時代が変わりそれでも同じ不安が描かれ続ける。エグザイルの感覚。不思議な話だった。

多和田は比喩がくどいのがやや苦手だが、それでも大した才能だと思う。ドイツ在住ということもあるが、なんだかカフカを思い浮かべる。都市の描き方も。

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今村夏子「こちらあみ子」「星の子」「むらさきのスカートの女」

異才と呼ぶべき人。デビュー作にして太宰治賞、三島由紀夫賞をとった「こちらあみ子」がいちばんいいけど、昨年の芥川賞「むらさきのスカートの女」も、手練れな印象。

造形していく女(女の子)たちが、やがて独り立ちして、コントロールをはずれて動いている。それでもこの変身感覚は作者の得意とするところで、テーマとか題材とかよりも、この変化していく感覚が、まさにこの人しか書けない世界。

「星の子」は広瀬すず主演で映画化の話があったはず。コロナで止まっていると思うがどうなるか。この本は新興宗教の一家の話だが、比較的「変」ではない小説、その分面白さは今一つ。

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