2001年生まれの若い作者、第一作目で受賞。面白くて少し夜更かしして一気読み。
舞台はアメリカの田舎とおぼしき小さな町。主人公のソフィは13歳で、父と兄のエディとの三人で暮らしている。父が「大」問題人。パブの経営者でギタリストで、マッチョで誰もが一目おく男。妻に逃げられ、今は娘を店にだして手伝わせたり、家事の一切をやらせたり。暴力的で娘にもけがをさせたりする男。支配者である父と対立し、顔を合わせない兄の板挟みで、ソフィはつらい毎日を半分あきらめの気持ちで過ごしている。
夏休みになったある日、家の前のブラックさんのところに、親戚のナタリーがひと夏を過ごすためにやってくる。一風変わった女の子だが、家族の不幸のせいで精神的な傷を負っている。なんと毎週人格が入れ代わり、別人に生まれ変わってソフィの前に現れるのである。週の終わりに日記を書き、生まれ変わった月曜の朝に前週の自分を読み直して、体制を整えてから人の前に現れるので、ストーリーはつながっているのだが…
ソフィとナタリーは、町の中を一緒に散歩したり自転車に二人乗りしたりしながら、お互いの未来の話、小さな夢の話をして過ごす。過干渉で噂話が飛び交うような小さな村社会のようなところで、これからも自分を殺し父に服従しながら生きていくのか。
父の虐待はますますひどくなり、ついに兄の隠し事をめぐって、それが爆発してしまう。ナタリーとエディは果たしてソフィを救ってくれるのか。ナタリーの人格変貌の理由はなんなのか。二人はこの霧に包まれた街をいつか逃げ出せるのか。
テーマは友情、そしてDV。ストレートで理不尽だけど、ナタリーのかわいらしさ、クールさが物語を救ってくれている。ハッピイエンド。よき物語である。
読みながら思ったのは、「アルジャーノンに花束を」のこと。ソフィの描かれ方がなんだかあの本の世界に少し似ている。「マディソン郡の橋」とか「スタンド・バイ・ミー」とか。アメリカの田舎町の風景を思い出しながら読んだ。筆者は高校時代、大学時代と留学をしており、さらにTVドラマの「フルハウス」がお気に入りだったとか。雰囲気がとてもでている。選考委員の宮部みゆきが「どうして舞台がアメリカなのか」と一言コメントしていたらしいが、日本では生々しすぎる。そしてふらっと現れるよそ者とか。霧に包まれる町とかたった一本の下界につながる橋と、その向こうの見知らぬ広大な世界とか、これ日本では成り立たない世界観でもあると思った次第。
とても若い作家なので、これからどんな作品を書いていくのか、また一作で終わってしまうのか不明だが、少なくとも「新人賞」に値する素晴らしい才能を持った人だと証明していると思う。
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