堤未果「デジタル・ファシズム」「ルポ 食が壊れる」

「 貧困大国アメリカ」以降、堤未果さんの本は大体チェックしていたが、このところ少し間をおいてしまった。今回は文春新書の「食が壊れる」とNHK出版新書の「デジタル・ファシズム」いずれもベストセラーになっているので、読んだ方も多いはず。

「食が壊れる」は昔からあった「食べてはいけない」系の本とはだいぶ趣が違う。これを食べるべき、これは食うなという趣旨ではなく、堤さんがいつも問題にする巨大資本と食料危機の関わりについて、その背景を洞察しているもの。特に現代科学の最先端の遺伝子工学を利用した、人口肉や、ゲノム編集魚やワクチンを入れた野菜などなど、世界規模で起こっている農業の集約と収奪の実態が分かって、かなり暗澹とした気分になる。

後半は少し光が見えてくる。日本の水田と米の話。自然栽培の可能性について、ただの夢ではない地に足の着いた取り組みを紹介しているので、ほっとする。有機農業は「難しい、儲からない、高い」といわれることが多いが、これをうまく商業ベースに載せている取り組み。「農薬、肥料、草取り不要!」を叫ぶ伝説の農業研究者の話など、読むとほっとする。

ところで、この本では、ビルゲイツ財団が頻繁にでてくる。農地の買い占め、世界各地の農業への投資、農業政策への関与、GAFAとあわせて、財政的支援を装った国連への関与など、かなり気になる動きをしている人だ。

「デジタル・ファシズム」は昨年できたデジタル庁や、いま一気に加速しだしたマイナンバーカード制度など、日本におけるデジタル化への傾斜の危うさがよくわかる。かつて郵政民営化でいかにも「郵政=悪」のイメージを作り一気にそれを民営化していった小泉・自民党政府の裏で、1000兆円にもなる郵貯を狙う外資とアメリカ政府の意向が強く働いていたのは、あとでようやくわかったこと。現在のデジタル化一辺倒も、構造はまったく同じである。今はアメリカだけでなく中国の影響も強く、日本の情報と資産は米中の強欲資本主義の包囲網の中にあるといってよい。

さて、一番気になるのは、教育へのデジタル化AI化の影響である。パソコンが使えない、情報を教えられない教員は去れ、みたいな動きが少しあるけど、これは昔から言われていたところ。もちろん情報処理の基本と、情報を扱うリテラシーは教員に限らず現代人には必須のことなのだが、一方で、「教育をデジタル化し、AIを活用して、教員を減らそう」なんて流れもなきにしもあらず。コロナで自宅学習が増えた機会を利用し、優秀な教員がリモートでやれば、教員削減と授業の効率化が一気にできる・・・そんなはずありません!

「子どもは学校にいて、集団の中で学ぶ」のが基本。もちろんいじめや不登校の問題もあって学校にいけない子もいるが、そういう子どもたちもフリースクールなどで、ある程度の社会性をつけていくのは肝要なこと。AIとか、リモートの画面の奥の知らない先生とか、それはよほどのモチベーションがない限り、そこに「教育」は成り立たないと思う。すさまじい勢いで、しかも水面下で教育が効率化と利益化を謳うビジネス主義に侵食されている。

ビジネスマインド?教育にはいりません。「無駄」こそが一番、遠くて近い道ではないでしょうか。


コメント

  1. 堤未果さんの事も、夫君が川田龍平さんとは!も知らず。不明を恥じます。これから読んでみたいです。蒙を啓いて頂き感謝します。 カイエ

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    1. カイエさん、コメントありがとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
      堤未果さん、2008年の「貧困大国アメリカ」が多分実質的なデビュー作ですが、これは素晴らしい本でした。ああ、アメリカってこういう国なんだと改めて知った次第。今は町山智浩さんのアメリカ論が面白い。これは主にウェブで。
      食が壊れるでは、水道民営化のことも触れられています。先日宮城県がどこかのTV局の水道民営化の危険を取り上げた番組に対して、BPOに訴えたというニュースがありましたね。細かいところは正確でないことはあったにしても、水道民営化はそれを始めたヨーロッパでも、これはダメだと民営化をやめているのです(フランスなど)。日本は問題が起こっても間違いを認め取り下げたりしない国だから、ダメでも、いつまでもやるでしょうね。民営化というのは「営利」なので、儲けをだします。競争相手もいないので、「いい値」でやられてもわかりません。全く食や水や環境について、これを「営利」の観点でやるととんでもない損失を県民(国民)が被ることになることもあるでしょうね。宮城県のやり方は、というか現知事のやり方は、橋下とか松井のような維新系の政治家がよくやる「スラップ訴訟」みたいなものです。とりあえず訴えて、恫喝するというやり方。テレビ局にやってるっていう・・・まあ、そんな感じ受けました。

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