初めて読んだ一穂ミチさんの短編集「ツミデミック」昨年の直木賞受賞作品である。
ツミデミックという不思議なタイトルは一穂の造語で、パンデミックのもじりなんだろう、罪を犯す、罪に値する出来事や人物を集めてみた物語、くらいの意味かな。コロナ禍で世界全体が閉塞していたほんの数年前、様々なストレスが人々を押し包み、人の暗い部分が顕在化してきたあの頃のこと、というモチーフですかね。
最初の短編二つを一気に読んで、「あ、これは嫌ミスだな」と思った。ストーリーはうまく展開するし、登場人物の心もわかるのだけれど、ハッピイエンドじゃない、後味が悪いタイプの小説のことだが、三つ目で「さらにオカルトまででてきたよ」と思った。でも悪くない、テンポが素晴らしい。そして四つめ「特別縁故者」で急遽印象はポジティブに。それはまあ多少はほっとする展開が欲しいもの。最後の二つは楽しく読めた。
コロナ禍で進んだ社会の変化、フード・デリバリーとか、トクリュウ事件とか、集団自殺とか、ウクライナ侵攻とか、うっすらと背景として利用しながら、個人の平凡な日常が少しずつ変化し、社会の目がちょっときつくなって、それがストレスとなり、心にも行動にも影響を受け微妙に歪んでいく姿を、うまくかき分けていると思う。なかなか手練れの作者です。できればもう一冊この手の「嫌ミス」系じゃないのを読んでみたいと思った次第。
以下に直木賞選評当時の、委員の意見。今回は高村薫の評が腑に落ちた。
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